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2011年9月23日 (金)

ボクの宇宙・レビュー(彪立篤史さん編)。

前日に引き続き、『ボクの宇宙』ライナー特集です。

今回のためにスペシャルライナーを書いてくれたのは

ボクの過去の作品 のほとんどのライナーを書いてくれている

彪立篤史くんです。

大学時代からの付き合いなので

ボクの音楽活動の流れをよく知ってくれている男です。

・・・

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  安田君がアコースティック・ギターで「空から舞い降りたメロディ」の断片を弾いてくれたのはいつだったでしょうか。彼の家に泊めてもらった折だったと記憶しているので、数年前…前作「GET BACK TO THE FINE DAY」が出てからそれほど経っていない時期だったかと思います。聴いた時期や場所はおぼろげでも、かの曲のBパート(になるのかな?)、クロマチックに下降していくギターとメロディ(そのときははっきりした歌詞は付いてませんでしたが)だけは、なにしろ印象深かったので、そのフレーズを思いついたときの彼の確信に満ちた表情とともによく覚えています。今回の新作「ボクの宇宙」を初めてターンテーブルに落とし、印象的なイントロダクションから始まるオープニングチューンを聴いたとき、「これだ!」と以前の記憶が「FLASH BACK」してきたことが思い起こされます。芽生えを見たきり記憶の彼方に埋もれていた植物の種が、長い期間を経ていきなり大輪の花を咲かせて目の前に現れたかのような感動があり、曲そのものと、そこに込められた長い熟成期間に対する思いに浸りつつ、「ボクの宇宙」を巡る音の旅は始まりました…

 先のベストアルバム「FLASH BACK」から早3年、新曲によるフルアルバムということでは「GET BACK TO THE FINE DAY」以来5年振り、ということになる今回の「ボクの宇宙」ですが、率直にいえば、「長かった~、でも待ったかいがあった~」というところでしょうか。前作「GET BACK TO THE FINE DAY」は、安田仁が収録する一曲一曲を極限まで練り上げた、彼にとって集大成的アルバムだと聞いています。実際、「恋するCLOCK」「癒しのボッサ」「少年の歌」「翼」など、今に至るまで彼のライブの定番となっている曲が何曲も収録されており、僕も愛聴している珠玉の一枚です。

 その「GET BACK TO THE FINE DAY」、そして直近の数枚のアルバム収録曲を再録も含めベストアルバムとして編集した「FLASH BACK」を経て、次のアルバムを出すモチベーションをどこにおくか、音楽活動がライブ中心にシフトしていた安田仁の次の一手に注目していたのですが、その彼が出した答えは、通称「サイケアルバム」ともいわれる「ROUND ROUND ROUND」以来のコンセプトアルバムでした。

新アルバムをコンセプトアルバムとするに至った経緯は、本人曰く「三日月の舟」という曲の誕生と大きく関わるそうです。確かにこの曲、タイトル、曲調、歌詞全てが相俟って、情景をありありと想起させる力に充ちています。三日月の微かな明かりが照らし出す小舟のシルエット、静寂の中、その舟にひとり乗る旅人の孤独な道行…この曲がコアになり、そこからどんどんと派生するイメージによってコンセプトアルバムが形作られたというのも納得できます。

さて、そのコンセプトアルバムである「ボクの宇宙」ですが、僕がここで最も述べたいことは、録音技術の革新など着実な進化をとげている安田仁の奥にある変わらない「軸」についてです。

 最初「宇宙」をテーマにアルバムを作成するという話を聴いたとき、僕が真っ先にイメージしたのは、電子音がピコピコ鳴りまくる音や、宇宙関係のTV番組などでよく流れるような壮大なBGM的曲調でした。アルバム制作前に録音環境を大きく切り替えたことと、それにより使える音の幅が飛躍的に広がったということは彼から聞いていましたので、曲作りや音作りについても、先に述べたような感じの音や曲を、安田仁流の解釈で作るつもりなのかな?と思ったのが、「宇宙」というテーマを聞いた時の僕の最初の印象でした。ひょっとしたら彼は「FLASH BACK」を今までの方向性の一つのピークとし、次作は今後の安田仁の方向性を大きく変える一枚にするつもりかもしれない、という思いさえ持ちながら、新アルバムの完成を待っていました。

 結果として、僕の印象は、最高にいい意味で裏切られました。「宇宙」をテーマとしながら、新アルバムは非常に良質のロックアルバムに仕上がっていたのです。ある意味、今までのアルバムよりもロックの要素は強いかもしれません。一聴して「そう来たか!」と驚くと同時に「さすが安田君!」という思いを新たにしました。

 「宇宙」をテーマにした今回のアルバムをロック基調のアルバムにしたことは、彼の作曲活動当初からのぶれない「軸」の存在をこの上なく証明するものだと、僕は考えています。本アルバムを聴くと解るように、特にドラムの音が、打ち込みでありながら限りなく生音に近いサウンドで録られています。このことが、「宇宙」をテーマにしたコンセプトアルバムでありながら、今までに増してロックアルバムという印象を与える一因ですが、これは、録音環境を一新し、音作りに革新的な進歩をもたらすツールを手にしたとき、彼が今までの方向性のより音的な深化を第一に志向したことを物語っています。

 レコーディング環境を整え、どのような音づくりも可能になったときに、まず生音に近く力強い音を志向する。また、「宇宙」をテーマとしながら、収録する曲は壮大な、別の言い方ではある種漠然とした曲ではなく、地に足の着いた、人の根源に訴えかける「ロック」を中心に据える。このスタンスこそ「安田仁」の作曲活動開始当初からの変わらぬ軸を物語るものであり、「安田仁」ならではのものだと思います。

メロディ志向でありながら時折独特なコード進行によるフックを交えて人の耳に届きやすくも離れない曲を作るという彼のスタンスは多くの人が知るところですが、特にライブを観るとよく解るとおり、安田仁は結構なロック野郎でもあります。かつて大学時代の友人が、「安田君の曲はポップスというよりやっぱりロックやんなぁ~」と語ったことがありますが、今回のアルバムを聴いて、そのときは何気ないセリフとして聞いていたその言葉が、その当時から今に至るまで変わらぬ安田仁の軸を、ある意味的確に表現した言葉として、今ありありと思い起こされます。

こう書くと、「宇宙」をテーマにしたコンセプトアルバムという印象と、収録されている曲が一致していないのか?という変な印象を与えてしまうかもしれませんが、これも聴いていただけると解るように、全然そんなことは無く、アルバム全編を通して聴くと、安田仁の思い描いた宇宙のイメージが堪能できるようになっています。

echo』という壮大なインストゥルメンタルに挟まれる構成で収録されている曲群は、確かにロックを基調とした曲が多くはありますが、それに留まらず、「三日月の舟」や「奇跡」のようなバラード、安田仁的ポップスの典型ともいえる「ボクの宇宙」「umbrella」「Just a Little Love」などが巧みに織り込まれていることにより、緩急自在かつ広大な音の世界が堪能できるようになっています。

更に収録された一曲一曲が、それぞれ歌詞と相まって頭の中に明瞭なイメージを喚起する力があることから、収録時間以上の密度の濃さを感じさせるアルバムになっています。

本人いわく、コンセプトアルバムを作るという目的が先にあり、それに合う曲を作曲・収録していった経緯があるので、曲単体の存在感としては前アルバムの収録曲の方が強いということでしたが、僕の印象では、今回のアルバムの収録曲もそれに負けないくらい個々の曲が強い存在感を持っていると思います(現に何曲か既にライブで披露されているのはその証拠でしょう)。冒頭にも述べた『空から舞い降りたメロディ』のように、何年も前から温めてきたフレーズを膨らませた曲もあり、一曲一曲が今までの積み上げと磨き上げにより完成されたものなのですから…

ただ、本アルバムは、そのような曲群が絶妙な構成で配置されていることにより、ジャケットの素晴らしいイラストと相まって、まさに「宇宙」と表現するにふさわしい奥行と広がりを感じさせるようになっており、その意味で彼が語るとおり、全編通して聴くのが最もふさわしい作品となっています。

個人的には『echo』というインストに挟まれた曲群が、さらに『空から舞い降りたメロディ』と『タイムトラベラー』という2曲に挟まれているところに注目しています。

過去を踏まえつつも現在から未来を目指す志向性に満ちた『空から舞い降りたメロディ』は、曲調からも歌詞からも以降のアルバムの展開を期待させる、オープニングにふさわしい曲となっています。一方、『タイムトラベラー』は未来から過去を見る視点で語りつつも、最終的には現在に立つ(戻る)内容となっており、エンディングでありながらまたアルバムの最初に無限にループしていくかのような印象を与える曲となっています。その後に流れる「echoreprise)」と合わせ、何ともいえない余韻を与えてくれる曲であり、この2曲がアルバムの前後に位置することで、作品の世界観に広大な奥行きが与えられています。

 この2曲に挟まれた曲群も、激しい曲あり、バラードあり、宇宙を含む外の広い世界に目を向けた曲あり、日常を含むインナースペースに目を向けた曲ありと、安田仁が思い描く宇宙のイメージが余すところなく、バラエティ豊かに投入されています。

これも個人的なイメージですが、僕としては「宇宙」をモチーフにしたテーマパークでアトラクションを次々と堪能するかのような印象がありました。単体の曲の良さは言うに及ばず、アルバム全体を通して聴くことで各曲の良さが何倍にも増幅される構成になっており、まさにコンセプトアルバムの名にふさわしいアルバムとなっています。繰り返しになりますが、安田仁がアルバム全編を通してしっかり聴いてほしいと願うのも頷けます。

昨今音楽の聴き方としていわゆる「アルバム主義」という考え方は廃れてきつつあるように思いますが、このアルバムを手に取られた方は、往年の音楽ファンのように、まずジャケットを一つの作品として眺め、想像力を膨らませていただきたい、その上で、CDをターンテーブルに乗せ、スピーカーからあふれ出てくるメロディを、アルバム全編を通じてじっくり堪能していただきたいと思います。本作品『ボクの宇宙』は、そのような聴き方でこそポテンシャルを最高に発揮出来るアルバムですし、音楽ファンに「アルバム主義」的な聴き方の魅力を改めて伝え、或いは思い出させるのに十二分な力を持った作品となっていますから…

最後に、この素晴らしい作品が発表されるにあたり、駄文で恥ずかしくはありますが、このような形で関わることができたことに喜びを感じますと共に、離れていても、何年たっていても変わらぬ友情をくれる安田君に心から感謝致します。この『ボクの(安田仁の)宇宙』が、多くの人の宇宙と触れ合い、より大きな宇宙へと無限に広がっていくことを願って… 

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